カイコ休眠卵の人工孵化メカニズムの解明



カイコの卵休眠は、蛹期に放出される休眠ホルモンが発育中の卵巣に作用することで引き起こされる。低温短日条件下で孵化した個体は蛹期に休眠ホルモンが放出されず、産卵された卵は非休眠卵となる。一方、高温長日条件で孵化した個体は蛹期に休眠ホルモンが放出され、産卵された卵は休眠卵となる。非休眠卵は発生が停止することなく進行して10日ほどで幼虫が孵化するが、休眠卵は産卵後2日ほどで発生が停止して休眠へと移行する。自然条件では、この休眠は冬期の低温に晒されることで解除され、春の気温上昇に伴い発生が再開することで孵化に至る。
 カイコの休眠卵を塩酸に浸すことで、休眠させることなく人工的に幼虫を孵化させる方法(浸酸処理法)が知られている。古くから養蚕業では実用的に用いられてきた技術であるが、カイコ休眠卵に対する塩酸の作用機序は不明な点が多い。我々の研究グループは、カイコ休眠卵にジメチルスルホキシド(DMSO)を浸透させることでも、休眠することなく幼虫が孵化することを発見した(文献)。塩酸とDMSOでは休眠卵の感受性が異なることから、両薬剤は異なる作用機序により、休眠への移行を阻害していることが考えられる。この両薬剤による休眠卵の感受性の差を分子レベルで解析することで、カイコ休眠卵の人工孵化メカニズムの解明を試みている。 カイコ休眠卵および非休眠卵の12~60時間までの経時変化 カイコの休眠卵では特異的な代謝系であるオモクローム色素合成系が出現する。そのため、非休眠卵の卵色は淡黄色のままほとんど色付かないが、休眠卵ではオモクロームによる卵の着色が見られる。

2015.05.20