プレゼンテーション練習方法(発表内容の覚え方)

はじめに

ここでは,プレゼンテーションでしゃべる内容を覚える方法を紹介します. この方法はこれまでの個人的な経験をまとめたものです. 自分の言葉で臨機応変に説明できるならそれにこしたことはありませんが, ここではそれが難しいと感じる初心者を対象にしています. スライドを作ってしゃべる原稿も作成したのにそれを覚えて話すことが難しいと 感じる人は試してみてください.

基本的な考え方

プレゼンテーションのスライドを使いながら説明をするには,スライドと話す内容を 関連づけて覚えることが重要です.そこで,スライドを印刷した紙に話す内容を記述 していき,それを使って練習をします.

前準備

練習を始める前に次の準備をしてください.
  1. プレゼンテーションのスライドの用意
  2. 話す内容を整理した原稿の用意
  3. プレゼンテーションのスライドを紙へ印刷
  4. 筆記用具の用意
ここで紹介するのは発表内容の覚え方なので,あらかじめ元となるプレゼンテーション のスライドと,話す内容を整理した原稿が必要です.原稿をそのまま覚えるわけでは なく,スライドに従ってアレンジしていきます.
ここで紹介するのは印刷物に文字を書き込んでいく方法なので, スライドを印刷したものと筆記用具も必要になります.

スライドへの書き込み

スライドを印刷した紙に,下記の基準にしたがって話す内容を書き込んでいきます (詳細は以下で例を示しながら説明していきます).
  1. 話す内容の一部をスライド上の文字や図に関連させて記述する.
  2. 話す内容の最初の部分に番号をふる.
  3. 1つのスライドで話す話題は多くても7~8個までにする.
    (基本的に7~8個以下の文で構成する.ただし1つの話題を簡潔な2つの文で 話すときなどはまとめて1つとみなす)
  4. 話す内容は文末の表現も含めてすべて記述する.
  5. スライド間のつなぎの文章も記入する.
例として,右上のスライドを使って書き込み方法を説明します.
※この例は2006年3月に行われたALST研究会の研究発表のスライドを この説明用にアレンジしたものです.研究の内容については研究会の予稿や 発表で使ったスライド(ALST2006.ppt)を 参照してください.

このスライドで最初に話す内容は,例えば下のように書き込みます.


この例では,次の文章をしゃべることを想定しています.
スライドに書かれた文をベースに,短い言葉を追加し,話す順序をアレンジして しゃべる内容を作ります.言葉のつながりや話す順序の指示は矢印で書きます. 言い換える部分は元の文字を×印などで消してそのそばにしゃべる文字を書きます.
※プレゼンをする人が自分で書き込むことが重要です.

この例の読み方は,「近年」から始まって,スライドの「コピー」という文字を読み, 次に「&」の代わりに「や」と言い,「改変」を読んで「などの」と続けます. スライドの最初に戻って「剽窃」に「行為」をつなげて,そこから「により…」以降の 文字をそのまま読みます.最後に「が増えています」としゃべって,最初の1つの セリフが終わります.

読みはじめる部分には,「そこからスタートすること」と「その文章がこのスライド の何番目に話す内容なのか」がわかるように,マル付きの番号を振っておきます. この番号はできるだけ目立つように書いておきます.この例ではこのセリフは 最初に話す内容なので,マルの中に「1」と書いておきます.

練習では,まず,書き込みをしたスライドを観ながら声を出してセリフをしゃべって みます.うまくできたら,今度は書き込みをしていないスライドを見て練習します. どこにどう書き込みをしたか,どんな単語を追加したか,どういう順で話すか, などがイメージできて,すらすらとしゃべることができると思います. また,ちょっと言い間違っても,そこから続けてアドリブで文章を作って話すことも しやすいと思います.例えば「剽窃行為により」を「剽窃行為によって」と しゃべっても問題はありませんし,そのまま気にせず説明を続けることができます.

このスライドのしゃべる内容を全て書いたものを下に示します.


一見,かなりごちゃごちゃしているように見えますが(実際ごちゃごちゃしてますが), 見た目とは違って,自分で実際にこの書き込み作業をすると,それなりに話す内容を 把握することができると思います.
ちなみに,話すのは次の5つのセリフです.
  1. 近年,コピーや改変などの剽窃行為によりレポートを作成する学習者が増えています.
  2. このような剽窃行為は学習者の学習機会を奪い,教師の成績評価の妨げになる だけでなく,著作権侵害の可能性もあるため適切な指導が必要になります.
  3. しかし,その確認作業をする教師の負担はとても大きいという問題があります.
  4. また従来は学習者間でのレポートのコピーが多かったのですが, 最近ではWeb上の文書のコピーがかなり増えています.
  5. そこで本研究では,Webからのコピーレポートの発見を支援するシステムの枠組み の設計と実装を行い,実際に授業で使用して,その評価をすることを目的と します.
マルつきの数字のところから矢印をたどっていくと,話す内容がちゃんと書かれて いることがわかってもらえるかと思います.

1つのスライドで話す内容は多くても7~8個(できればセリフ5~6個)に 抑えると良いです(経験的にですが,同時に把握できる話題は5~6個ぐらいが 限界のように感じるので). ちなみに,この例では5つの話で構成しています.
ひとつの文が長すぎるために,短い二つの文に分けるときは二つをまとめて 1つの話題として数えます.このような場合,例えば(5)の文を2つに分けるときに は,マルの中には(5-1)(5-2)のように,1つの話題を2つに分けたことが わかるような番号の付け方をします.

なお,今回はカラーのスライドに赤と青で交互にセリフを書きこんでいますが, 実際にやるときには,白黒印刷(背景は白で印刷)したものに赤で書き込んだ方が 見やすいと思います.

次に,右のシステム構成図の例での書き込み方法の例を示します.
このスライドでは次のセリフをしゃべります.
  1. 次にシステムの構成について説明します.
  2. これはシステムのデータフロー図です.
  3. 教師は収集したレポートをユーザインタフェースを介してレポートデータベース へと保存します.
  4. Web検索部はWeb検索エンジンを用いて検索し,結果として剽窃元候補の Webページを取得します.
  5. 剽窃検査部はこれらを比較して剽窃の可能性を評価します.
  6. 最後に視覚表示部が剽窃個所を特定し,それを教師に示します.
最初のセリフは,スライドとスライドとのつなぎの文章です.必要に応じてこのような 言葉をひとこと言っておくと,発表全体におけるスライドの位置付けが明確になり, 発表にもメリハリがついて聴衆に理解してもらいやすくなります. また,簡単で間違いようのないひとことから始めることで,発表者自身の緊張をとる 効果もあります.

下の図はこのスライドに書き込みを行ったものです.

つなぎの文章もきちんとスライドに関連づけて書き込んでおきます.

2つ目の文章(スライド右上)では,話すセリフはスライドと関連していませんが, 代名詞「これ」が図全体を指すという点でスライドと関連させています. また,5番目のセリフ(スライドの中央左からスタートする文)でも, 代名詞「これら」を使っています.この部分は実際に「これら」としゃべりながら スライド上の「レポートDB」と「剽窃元候補Webページ」の双方をポインティング (指差し)することを想定しています.このような場合には代名詞をマルで囲み, 別種の矢印(この図では⇒)を使って,その代名詞が図中のどれを意味しているかを 指し示しておくと良いです.こうしておくと,図とセリフが関連づけられ,かつ, 発表中にどこをポインティングしながら話せばいいかが整理されます.

表記

記号の使い方は,基本的には本人にとってわかりやすければ,どんな方法でも かまいません.一応,私が使っていた書き方を下記に整理してみましたが,必ずしも これに従う必要はありません.
記号 説明
①,②… セリフの開始位置.番号はそのスライドで何番目に話すかを表す. 他の文字と比べて特に目立つようにする. 1つの話題が2つの文から成るときは5-1,5-2のように番号をふる. 左の例は,「近年…」というセリフから始めることを意味する.
記述のつながり順.矢印にしたがって文字をつなげて読むとセリフになる. 左の例は「…学習者が増えて…」としゃべる.
×,- 読み飛ばし,または読み替え.スライド上の文字を×や-で消す. 読み替えの場合はそのそばにどう読み替えるかを付記する. 左の例は「…作業をする教師…」としゃべる.
∨,∧ 言葉の挿入.スライド上の文字列の間に短いセリフを挿入する場合につかう. 開いている側に追加する文字列を書く(長い文章を挿入する場合は矢印を使った方が 見やすいことがある).左の例は「…学生間でのレポート…」としゃべる.
○⇒ 代名詞の指す先を表す.代名詞をマルで囲み,スライド中のどれのことなのかを 矢印で指し示す.発表の際には代名詞をしゃべりながらスライドをポインティングする. 左の例では「これら」と言いながら矢印の先の図をポインティングする.

練習

まずは書き込みをしたスライドの印刷物を観ながら声を出してセリフをしゃべってみます. うまくできるようになったら,今度は書き込みをしていないスライドを見て 練習します.
この作業を,文ごと,または,スライドごとに繰り返し,しゃべれるようになったら 数枚のスライドごとに練習します.そして,最終的にスライド全体をしゃべれるよう にします.

しゃべりにくい部分は,話す内容を変更したり,必要に応じてスライドを書き換えたり します.現状の書き込みにあまり固執しすぎず,必要であれば話の構成自体の変更も 視野に入れて検討します. 変更の際にも,ある程度長いセリフは必ずスライドと関連づけるようにします. スライドに書かれたものが全く出てこないセリフは,とても短いものを除いて 作らない方が無難です.

スライドだけ見て話す練習をしているときに,書き込んだものと違う言葉が口から 出てしまったら,できるだけそこからアドリブで話を続けてみる努力をします. それぞれの話が番号付きで整理されていてるので,多少アドリブを入れても 全体の筋が壊れることはありません.ただし別番号の文の間をまたぐようなアドリブは 筋を壊す可能性があるので避けた方が良いです.そうせざるをえないと感じたときは, 話の構成を再検討した方が良いかもしれません.

臨機応変に話せる自信がつくまでは,アドリブで話してみて今よりもしゃべりやすい (あるいはわかりやすい)話し方に気付いたら,面倒がらずに書き込み内容を 変更した方が良いです.例えば,最初の例の4番目の文の後半を 「Web上の文書をコピーする学生がかなり増えて」にした方がしゃべりやすいと 思ったら,そこの部分を書き換えます(かなり頻繁に書き換えることになるので, 最初のうちは,書き込みに鉛筆を使った方が良いと思います).

この方法で練習していると,今話している場所のイメージができるので, スライドのポインティング(指差し)もしやすくなります. ある程度しゃべれるようになったら,ポインティングしながら練習をします.

十分練習すれば,スライドを切り替えたときにちらっと見るだけで,そのスライドで 話す話題のかたまりの全体像がイメージできるようになります. 最終的には,スライドはちらっと見るだけにし,できるだけ聴衆を見ながら話す レベルを目指します.

発表当日

読み原稿や書き込み済み印刷スライドを見ずに,プレゼンテーション用スライドを 見て話します.必要に応じてポインティングをすることを忘れないように.また, スライドを見続けなくても話せそうなら,できるだけ聴衆の方を見ながら話しましょう.

スライドの書き込みに従うことに固執しすぎない方がいいです.上述のアドリブの 練習もしているはずなので,書き込みしたのと違う言葉を言いはじめてしまっても そこからつなげて話せそうなら,言い直しせずにアドリブで話します. ただし,アドリブに固執しすぎるのも良くないので,話せなさそうなら素直に言い直し ます.このへんは臨機応変にやるしかありません.

どうしても心配な人は,印刷物を手元に置いて話しましょう.ただし,それを見るのは 「頭が真っ白になってしまった場合」などに限ります. 見なければならない事態に陥ったときには,該当するスライドのマル付き番号を 優先して探します.そこから矢印のたどりぐあいをイメージできれば, 途中から復帰することもできるでしょう.

おわりに

この方法で,何回もいろいろなプレゼンテーションをしていると,そのうちに スライドを作りながらセリフを考え,また,セリフを考えながらスライドを作る ことができるようになると思います. そうなったら,スライドに書き込みをしなくてもプレゼンできるように なるでしょうし,スライドをポインティングしながら聴衆を見て話すことも できるようになるでしょう. この文書をプレゼンスキルの習得に役立てていただければ幸いです.
製作者 高橋 勇