バイリンガリズムの視座から見たEAP

本研究では、第二言語のCALPの発達という観点から、バイリンガリズム理論に基づいた、大学英語教育におけるEAP(English for Academic Purposes)教育を開発することを目標とします。

本研究におけるEAP教育の定義:日本の大学生が専門的内容を英語でも理解できるまでの言語力を養成すること。 基礎英語からの橋渡し教育ととらえます。学習者が生涯に渡り高度な言語運用能力を身につけていく、いわばCALPの恒常的発達を目標として、その土台作りとなるEAPプログラムを開発します。

背景

文部科学省の学習新指導要領が施行され、「生きる力」として論理的思考力が教育のキーワードとなりました。その背景として、PISAの「生徒の学習到達度調査」の結果から、日本は読解力に問題があったことが挙げられます(OECD, 2010)。読解力とは、与えられた文章の内容を正確に理解するだけでなく、内容の因果関係を理解し、テキストの情報を自分自身の概念的基準と関連付け、客観的に評価したりする姿勢まで含まれます。言い換えれば、PISA型リテラシーは、内容を受容するだけでなく、読み手として主体的に考え、判断し、結論を出していく能力であり、学校教育のすべての教科に必要とされるものです。もちろん、第二言語としての英語教育おいても重要です。英語学習を論理的思考の表現方法を学ぶ場、PISA型リタラシーを育成する場ととらえる新たなアプローチがあれば、グローバル社会に対応する高度なコミュニケーション能力の育成が可能となり、生徒のモチベーションを引き出す契機となるでしょう。

本研究は、大学英語教育学会(JACET)バイリンガリズム研究会が行っています。研究会のメンバーは、日本の言語教育の現場に、Cognitive Academic Language Proficiency(CALP)(Cummins, 1981)を養成する土壌があるかを研究してきました。2010年に小学校の3年生から6年生までの主要科目の教科書を分析し、国語や社会では高学年に抽象的な思考を伴う活動が盛り込まれ、プロジェクト学習型のレポート・ライティングなどの活動が含まれていることを指摘しました。2011年からは認知領域を階層化したブルームのタキソノミー(1972)、およびその改訂版であるアンダーソンのタキソノミー(2001)を研究し、後者を用いて中学校の英語の教科書6社18冊の発問とタスクを分析しました。その結果、高度な思考(評価、創造など)を伴う活動はほとんど日本語で行われ、英語で複雑な思考を表現させる足場作りが不足していました。2014年からは高校の検定教科書分析を行い、その傾向は高校でも見られることが明らかになりました。 このことを踏まえ、第二言語のPISA型リテラシー育成のため、中等教育ではどのような英語教育を行ったらよいのかを検討しました。