設立からの歩み

設立からの歩み

大学英語教育学会(JACET)の研究組織の一つであるバイリンガリズム研究会は、1996年(平成8年)に、東京大学教授・岡秀夫氏によって設立されました。日本内外のバイリンガリズム教育について広く実態を調査し、二言語、あるいは三言語の習得過程について、Cummins(1984), Baker (1996)をはじめとする理論研究を行ってきました。

2000年から2002年にかけては、日本でバイリンガル教育を行っている学校を対象にパイロット・スタディとして授業視察およびアンケート調査を行いました。そして、2005年には科学研究費補助金(基盤研究C)に採択され、「日本におけるバイリンガル教育の実態調査」という研究課題で本格的な調査を始めました。日本各地でバイリンガル教育やイマージョン教育をとりいれている様々な形態のプログラムの授業を見学し、教師や父母、また生徒へのインタビューを行い、カリキュラムに関する資料を収集しました。それらの抱負なデータをもとに、学習者の教育環境と言語習得との関係を考察し、成功点や問題点を明らかにしました。その結果を『日本のバイリンガル教育―学校の事例から学ぶ』という一冊の本にまとめました。

その後、研究対象をアジア諸国(台湾・韓国・香港)やアメリカ・イギリスにおける英語教育および言語教育に広げました。さらに日本人が効率よく英語を学習するためにはどうしたらよいかを探るために、言語発達および言語習得に関して多角的な観点から、定期研究会では相反する立場も含めて認知心理学的観点(Pinker, 1994; Tomasello, 2003) から、文献研究を進めてきました。

2008年、平成20年度科学研究費補助金「グローバル社会に対応する英語教育の構築―海外の実態調査の分析から」では、日本の英語教育が海外の言語教育から学べる点をバイリンガリズムの視点で分析しました。その結果、思考を伴う言語教育が高いコミュニケーション能力を育成する上で必須であることが明確になり、その有効な方法として、CBIやイマージョン教育など、学習内容を通して学習者主体の授業をする方法を、国内外の学会・シンポジウムなどを通して、提案してきました。また、台湾・韓国・香港の英語の授業観察や、アメリカ、イギリスの高校の言語教育の調査分析から、言語活動の方法が学習効果、成果としての学習者の英語力に大きな影響力があることが示唆されました。高い英語コミュニケーション能力を育成している授業では、認知的要求度の高いコミュニケーションスキルが培われ、同時に批判的、分析的能力を育てる「ディスカッション」が活動の主流をなしているのです。このように、思考力を伴う分析的な言語活動によって、また、ヴィゴツキー(1978)「発達の最近接領域」の概念で裏付けられる協同学習に根差した活動は、CALP―教科などを通じて習得するアカデミックな英語力―の伸長が促進されることを説明してきました。

そこで、本研究会は、平成23年度科学研究費補助金「バイリンガリズムを基盤とする言語教育の研究―CALPの育成をめざして」の研究課題として、内容重視の教授法(CBI)と内容言語統合型学習(CLIL)の実践例を、海外(アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国、台湾)、国内に渡って広く調査・分析をしました。また、CALP を伸長する教育という観点から、日本の英語教育の中学校に焦点をあて、検定教科書の「発問」「タスク」を分析し、CALPの育成につながる設計になっているかを検証しました。そして、日本の土壌でCBIやCLILを効果的に応用・展開するための英語教育の教育モデルを提案していくことになりました。

平成26年度~28年度科学研究費助成金・基盤研究(C)「PISA型リテラシーを育成する英語教育の研究」において、第二言語のPISA型リテラシー育成のため、中等教育ではどのような英語教育を行ったらよいのかに取り組みました。グローバル社会で通用する英語力とは、英語によるコミュニケーション能力と論理的思考力であり、情報に客観的にアプローチし、自分の考えを論理的に表現できることです。高校英語の検定教科書の分析、加えてCLIL、国際バカロレア(IB)等の実践校の視察調査を行いました。